超オススメな国際的写真祭KYOTOGRAPHIE。最も印象的だった写真家松村和彦さんの早川一光医師をとらえた写真展が現在発展拡大中。

足を運んで自分の目で確かめなければ到底アクセスしえなかった情報、人との巡り合わせというものがある。一方コロナ禍で急速にオンライン化が進み、物理的な距離を飛び越えて進行中のプロジェクトを追うことも可能になった。今日は昨年京都でのひとり旅で出会った興味深い写真プロジェクトをご紹介します。*11/23公開後編集しなおしました。(12/2)


昨年演技のパフォーマンスを磨くためアレクサンダーテクニックのレッスンを受けに京都を訪れた。ゴールデンウィーク。観光客で溢れかえる町並みは避けたい。稽古場と宿泊ホテルを往復しつつ合間を縫って、毎年京都で開催される国際的な写真展、KYOTO GRAPHIEを巡ることにした。KYOTOGRAPHIEはその関連イベントもあわせると美術館や改造した町家など数十カ所で写真展が同時開催され、その評判の良さはかねてから耳にしていた。

訪れたKYOTO GRAPHIE(キョウトグラフィー)で1番印象に残った展示が京都新聞の写真記者•松村和彦さんの展示「こんなはずじゃなかった」。地域医療のパイオニアである早川一光医師の人生が集約された展示だった。松村さんが京都新聞で早川医師を取材し連載していたものをベースに早川医師の個人史とその時代背景を当時の新聞にコラージュしたもの。

私は日頃から偶然の出会いを大切にしている。そもそものお目当は京都新聞社の地下にある工場跡のインスタレーションだった。そこに辿りつくまでのギャラリースペースに松村さんの展示があってなんだかピンときた。写真に収められた早川医師の大きな背中と新聞のコラージュが立ち並ぶギャラリーのエネルギー。個人の生き方と時代の歩みが交錯し、その大きなうねりにすっかり飲み込まれ、参考文献として置いてあった早川先生の過去の著作を広げて読みふけっていた。足が痛くなって我に返ったそのとき「どうぞ座ってごらんください」と席を勧めてくださったのが京都新聞記者松村さんで作家ご本人だった。取材のエピソードを直接お聞きする喜びと、この展示を生み出す原動力に触れてますます感動した。

新聞の連載が、こうしてギャラリーで「作品」として展示され、今後さらに発展していきそうな勢い、それから記者であり写真家でもある松村さんのあり方も興味深かった。松村さんは連載を終えても 早川先生からもらった「宿題」と称し、社会保障の理想のあり方や早川先生がおっしゃろうとしていたことの意味を問い続ける。その執念に思わず共感した。というのも2017年ロバート・フランク関連の記事執筆後、リサーチを重ねてNYまでロバート本人を追いかけに行った当時の自分の心境が蘇り、また新聞という素材を生かした今回の展示は2017年秋に神戸で開催されたロバートフランクの展示にもつながるような気配を感じたから。一定期間書いて終わり、ではなく追いかけ続ける。やむにやまれない熱量は人を圧倒する。結局この展示に2度訪れ、今後の展開を楽しみに京都を跡にした。

今年の6月になって、松村さんのプロジェクトがさらに発展していることをFacebookで知った。東京を拠点に写真家に発表や成長の機会を提供しているREMINDERS PHOTOGRAPHY STRONGHOLD配信で松村さんがプロジェクトの進捗として本の出版を目指しダミー本を作っていることを語っていた。

と同時にオリジナリティーとは何か?創作する上で作品の可能性を広げていくために必要なこととは何か?世の中にいろいろな方法論があれど、結局は自ら行動しやってみることで作品のスケールが大きく展開していく。自分でなんとかして作品作りを可能にしていく。その手段こそがその人にしか持ち得ない方法論である。そんなお話をREMINDERSを主催されているキュレーターの後藤さんが最後のほうで語り、型にはまらずとにかくやってみろと背中を押されたような気がした。

↑さまざまな作家の本作りワークショップや個展情報が続々更新。

https://www.instagram.com/p/CHUlFNDgjkJ/?igshid=2h1t94txs8ln

「こんなはずじゃなかった」という展示が「見えない虹」というタイトルに変わってプロジェクトは進化、進行中だ。展示や本の出版となっていくことが待ち遠しい。コロナ禍で以前より身軽に動き回れない今だけど、こうして世界は繋がれていて物事が進展していることにワクワクするし、新しい創作への大きな刺激をいただいた。そして今年私のTEDxの動画を松村さんが見てくださって飛びこむ力の感想をくださったのも嬉しい。

常にアンテナを張り続けること。あの時KYOTOGRAPHIEを訪れたことで新たな好奇心と楽しみがぐんぐん広がっていく。これから東京曳舟にあるREMINDERS PHOTOGRAPHY STRONGHOLDのギャラリーにも訪れてみたい。次はどんな出会いがあってじぶんの視界を広げてくれるかたのしみだ。

◆新情報:

12月5日土曜日に東京スクエアガーデンで開催される「T3フォトマーケット」に3作品が出展とのこと。詳しくは松村さんのInstagramをご覧ください。https://www.instagram.com/p/CIVjdZtH5Hf/?igshid=pumolhs6spm8